橋本歯科医院 コラム 第1回
食後の歯みがきについて
長年にわたり大磯小学校の学校歯科医を担当していますが、食後すぐに歯をみがくと、あたかも歯が溶けてしまうというような報道が新聞やテレビで伝えられたため、混乱がみられるようです。
これらの報道のもととなったのは、実験的に酸性炭酸飲料に歯の象牙質の試験片を90秒間浸した後、口の中に戻してその後の歯みがき開始時間の違いによる酸の浸透を調べた論文で、むし歯とは異なる「酸蝕症」の実験によるものです。
このことに関連して日本小児歯科学会では、次の見解を出しています。
実際の人の口の中では、歯の表面は上記の実験で用いられた象牙質ではなく酸に対する抵抗性がより高いエナメル質によっておおわれています。
したがって、このような酸性飲料を飲んだとしても、エナメル質への酸の浸透は象牙質よりずっと少なく、さらに唾液が潤っている歯の表面は酸を中和する働きがあり、酸性飲料の頻繁な摂取がないかぎり、すぐには歯が溶けないように防御機能が働いています。
つまり、一般的な食事ではこのような酸蝕症は起こりにくいと考えられます。
小児における歯みがきの目的は歯垢の除去、すなわち酸を作り出す細菌を取り除くとともに、その原料となる糖質を取り除くことです。歯みがきをしないままでいると、歯垢の中の細菌によって糖質が分解され酸が作り出されて、歯の成分が溶けだします。このように、歯垢中の細菌がつくる酸が歯の成分を溶かしてできるむし歯と、酸性の飲食物が直接歯を溶かす酸蝕症とは成り立ちが違うものです。
結論としては、通常の食事の時は早めに歯みがきをして、歯垢とその中の細菌を取り除いて歯の成分が溶け出すこと防ぐことが大切です。
院長 橋本 雅範